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最果ての彗星2 (3/n)

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最果ての彗星2 (3/n)

 1


 ルージュは玄関の扉を開けた。


 溜息をひとつ。


「あら。おかえりなさい、ルージュさん」


 顔を上げるとそこにはお付きの者を伴った海神がいた。


「調子はどうかしら」


 首を少し傾げて言う。


 真っ直ぐの髪、優雅な仕草。


 これぞ、上に立つ者の見た目という感じである。


「体に不具合は起きていない?」


「あ、それは、大丈夫です」


「それは良かったです」


「お母様―、と」


 玄関ホールの更に奥から来たのはこの海神の三番目の息子であった。


 ここに来ているなんて珍しい。


 ルージュは話しかけはせず、目礼だけした。


 明るい髪の色、可愛がりたい者を刺激しそうな素直で快活な性格が滲み出ている顔。


 よくもまあそんな似合った体が見付かったものだ。


 それとも、内面の影響で外側が変わったのだろうか?


 そこへ二番目の息子がやってきた。


 三男とは違い静かな空気が流れている。黒い髪、特徴のない服。


 柔和ではあるが何者も寄せ付けない静かな笑顔。


「アキは?」


 三男が海神である母親に聞いた。


「用事が終わってからだそうで、外で待ち合わせの予定です」


「そっか。楽しみだなー」


「これからお食事に行こうと思っています。カイトはどうしますか」


「あ、アキからだ。今終わって向かってるって。早く行こうよ」


「用事があるので」


 次男は少しだけの笑顔のまま首を横に振った。それで会話は終わったとばかりに皆の足が動き出し、ちょっとした集団は玄関を出て行ってしまった。


 ルージュは心の中で一息ついた。やはり緊張していたようだ。


 さてやっと自分の部屋へ戻れると思ったとき、カイトと目が合った。


「ね、ところでルージュはこのあと時間ある?」


「え」


「どこか一緒に出掛けない?」


「さっき用事があるって・・・」


「用事は終わった。ルージュは、暇?」


「ええ、まあ・・・暇かな」


 ほんの気紛れだ。暇なのは本当で、だからこの不可思議な扱いをされている海神の次男を観察してみようと思った。


「よし、じゃあ外で合流! 待ち合わせというものをやろう」


「何、意味わかんない」


「時間は二時間後がいいかな? 場所は携帯端末に送るから。山登りはしないけどたくさん歩くから歩きやすい靴と服装がいい。じゃあ後で」


 清々しい笑顔ときれいな流れで予定は決まり、さっさと行ってしまった。


 ルージュには相変わらず考えが読めない性格の持ち主だった。



 2


 この体に魂を移してからまだ数年。


 人の数が多くなり、魔の者と呼ばれる人ではない生き物の生存圏が無くなりつつあった。そこで人の体に魂を移し、乗り移ろうと考えた者がいた。人の中に溶け込むのに抵抗がある者、人に成るのがそもそも抵抗のある者・・・。賛否両論あったものの、ともかく技術は確立し、魔の者は人へ乗り移って行った。


 科学が進み、陸地に居ては捕まるのは時間の問題となった。魔の者たちは海へと追いやられ、そこが最後の地となっていた。海神はもともと海を統率していた者だったため、海へ逃げて来た者たちに諍いが起こらないようにしたり場所を作ったりとしていた。自身も乗り移り、陸へ上がってからも乗り移った者たちが人の世に溶け込めるよう手配する役目をそのまま担って今に至る。


 ルージュも乗り移った者だ。人の体はどこから手配しているかは不明だが、死体を使っているらしい。乗り移る順番はまちまちで、見た目と精神が似通った体のほうが上手く馴染むらしい。今も順番を古くから待っている者達がいるらしい。


 らしい、らしい、という噂や技術の話ばかりで、実のところルージュも詳しくはわからない。知っているのはこの組織が「館」と呼ばれている事だけだ。



 どこに行くのか見当も付かないまま待ち合わせの駅前に到着。


 既にカイトは待っていた。先程よりは明るい色合いの服装でどこにでもいる人間の若者という出で立ちだ。


 海神の次男であるカイトとは、館の敷地内に住んでいるので当然顔は知っているし話したことはあるのだがいつも挨拶程度。あとは誰かを探していたりのときで、二言三言交わした事があっただけだった。だから今回の誘いは珍しい。


「やあ、待ちくたびれちゃったよ。もしや来れないと思って不安になっちゃった」


「二時間ここに居たんですか」


「まずは電車に乗ろうか。・・・乗り方はわかるね?」


「はい。勿論」


 そう返すと満足したように頷き改札へ続く階段のほうへ向かった。


「最初の目的地は住宅街にある雑貨屋さん。なぜか人気がある。特に大きい最寄駅でもないし駅から少し遠いのに、だよ。気になる」


「はあ・・・」


 電車が来るまでの会話がこうだ。降りる人を待ってそのあと乗り込む。電車内は比較的空いていた。ドアの近くに二人は居場所を決め、ルージュは外を眺めた。ふとやや後ろにいるカイトが気になって覗いてみると、あちらもこちらに気付き「ふっふっふ」という声は出ていないものの、そういう顔付きをしてきた。どういう反応なのかはわからない。


 小売店が駅前に少しだけあるという、住宅街の普通の駅だった。そこからまた歩いて目的の雑貨屋へ向かう。カイトは携帯端末を確認していたがすぐに行く方向が決まった。事前に調べていたようだ。


 線路と平行するようなまっすぐな道だった。隣の駅との真ん中あたりまで歩いただろうか。そこに雑貨屋はあった。建物は白く、少しの植物で彩られていた。反して中は暗く、雑貨がひしめき合っていた。どれも非日常を演出する変わった物ばかりだった。具体的には魔法道具みたいな。創作物の中にしか登場しないような華やかで煌めいていて、日常には全く必要のない物。でも人の心が躍るのだろうというのはルージュにもわかった。


 店内に品物は多いものの狭いのですぐに見終わってしまった。気が付くとカイトは外にいた。何も買わなかったようだ。良いなと思った物はあったが買うまでは行かずルージュも店を出た。


「次はどこに行くの?」


「次はね・・・」


 例の謎の笑みを浮かべて次の行き先を告げられた。






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