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最果ての彗星3 (6/n)

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最果ての彗星3 (6/n)

乗り移れなかった者、乗り移る順番を待つ者、乗り移らないと決めた者、その者達が人の世界に危害を加えたら制裁が下る。乗り移って人に成った者でも例外はない。人と迎合すると決めた以上、人に成ってしまった以上、理不尽な人間性や社会性に遭っても危害を加えてはならない。人間を守る為というより、長期的に見て自分達を守る為だ。絶対に見付かってはならない。


説得して海に戻らせるという方法はある事にはあるのだが大概が殺される。話して説得出来る奴は、最初からこういう行動を起こさないからだ。


そうしたルールを逸脱した者を制裁する者達がいるというのは聞いていた。あれはきっとそうだ。


もう何もかも元には戻らないというのに、あの者は街へ出て来たのだろうか、と考えたい事が山ほど出てきたが状況が状況だ。


「あああああツバキさんあっちへ! あっちへ行きましょう!」


「いきなり何!?」


「あっち、あっち!」


「あ、何か人が集まっているね」


「でもなーんかやばそうだから逃げましょう!」


「警察に通報したほうが」


「それはもっとやばい! いえいえ、あちらの、見えない所に行ったら電話でもなんでも! とにかく誰もいない所に行きましょう!!」


「誰もいない所? それはそうしたいけど」


ツバキの体を反対方向へぐいぐい向ける。


「ええ? ちょ、ちょっと待って。やっぱり警察へ通報したほうがいいよ」


やはり人間とは基本的に善良だな、と諦めてルージュは反対方向の低木の近くにしゃがむ。ツバキがこちらを見ている。こちらに来いと手招きをしてみた。彼は素直にやって来て隣にしゃがんだ。


「・・・通報しても無駄ですよ、きっと。それよりも見付かるほうがやばい気がします」


「やばいって何が?」


ツバキは笑った。


何がどうやばいかは確かにわからなかったがとにかく見付かりたくなかった。


「ほら、目撃者は消されるとかあるでしょう」


「人ひとりがいなくなったらすぐに捜索されてあっという間に見付かるよ。昔ならともかく、きちんと管理されているしね」


「おーい、こっちに民間人がいるぞう」


見張り役に見付かった。ちゃんと統率されているなあ・・・とルージュは呑気に思ってしまった。彼女一人ならなんとも無いがツバキはどうなるのだろう。目撃した人間はどうなるのかそういえば知らなかった。あの者と一緒に殺されてしまうとか? それは人間が動いてしまうのでさすがに無いと思うが・・・。良いほうの想像で人質か脅迫か。


逃げられないなら言い包める作戦に移行、いくつか立案、どれが最適か判断・実行―、などと考えていたらあちらの人型の集団の、中心から少し離れた所にいた奴がこちらに来た。


ああ、こいつは―。


懐かしい、とも少し違う。不思議な感覚を感じルージュは黙った。


少し冷静になれた。


暗い赤の服に一重のつり気味の眼。元の姿はきっと上の弟に似ていただろうなとなぜかずっと想像していた。


「んーどうした?」


砂浜をのっそり歩いてきた男はルージュを認めた。彼とは、カイト以上に交流が無かった。名前はアキ。海神の一番目の息子、すなわちカイトの兄だ。


「目撃者ねえ・・・あ、お前は知ってる。でもそっちは知らん。人間?」


「はい、一般人かと思われます」


「私たちはたまたまここで話していただけ。別に何かしようだとか、無いから」


ルージュは背にツバキを庇うようにして言った。


彼女は遠くの地から来た者だ。故郷から出てあてもなく海を彷徨っていたところに海神の噂を聞きつけ世話になった。海神に恩はあるが息子達はそれとは関係が無かった。血筋が良いが、それだけだ。彼等が凄いわけではない。だから敬ったりはしない。これは大体の魔の者に共通する認識だ。


「へえ・・・こんな時間に?」


「僕は徹夜明けです。学校からそのまま来て徹夜中と言いますか」


「私は夜勤明け」


「お、おーすげえ。夜に仕事か。そういう仕事もあったな、この近くだっけか。すげー。今度そこの買うから」


などと言うが真意が見えないのが怖い。


「というわけで私達はこれで・・・。ほら、あまり離れたら任務に支障を来たすんじゃない?」


「俺はどっちかというとナビゲーターだからもういいの。叩くは別担当だし」


「あ、そう・・・」


「ちょいちょい。待てって。お前あれだろ・・・うん、思い出した。カイトの女」


「え!」


「違う」


「は~。だってやけに仲良かったじゃん」


「あなたよりはね。でも友達じゃない」


「じゃあ何?」


「さあ」


「変わってる奴同士、お似合いだと思ってたんだけどなー」


「本人に聞いたら良かったじゃない」


「えー嫌だよ。何考えてるかわかんねーし。聞いてもどうせあーだこーだ屁理屈っていうの?言われたね」


「え、ルージュさん彼氏いたんですか。あ、どうしよう、聞くの忘れてた・・・」


「違うって言ってるじゃないですか」


「だったとしてももう関係ないしな」


「・・・」


「・・・」


最初から何もかも関係ないだろ、という言葉はさすがにやめた。


何とも言えない空気が流れてツバキが狼狽える。監視役の男がこっそり言った。


「カイトさんは、亡くなられているんです」


あっそういう事なんですね・・・という身振りで監視役にお礼を言うツバキ。


「というわけで別に通報とか撮影とかやろうと思っていたわけじゃないから。帰っても問題ないよね。この人間にはちゃんと言っておくから」


「僕消されちゃいます?」


何言ってるんだ、とルージュは無言で見た。


「でもあの黒いのって、あれですよね。昔から言われていた一人で遊んじゃ駄目って言われている魔物」


「言われている? 魔物?」


「あ、そっか、知らないですよね。ここら辺の子供には小さい頃から一人で遊んではいけません、攫われて体を乗っ取られてしまうって言われて育つんですよ。防犯の為の迷信だと思っていたけど本当だったんだ」


はえーと遠くを見ている。黒い塊は砂浜の真ん中あたりで動かない。恐らくもう死んでいる。周りで人が動いているがもう切迫した感じではなかった。


ルージュはこっそりとアキを見た。ばれているぞ、と意味を込めて。それに対してアキの反応は薄かった。口を少し歪めるだけ。


アキの「仕事」は人の世界に出た魔の者の処分だったのか。明け方によく帰宅していたのは夜更けに動いていたからで、でももしかしたら今までも見られた事があったのかもしれない。


「それにしても、本当にこういう部隊?があったのね」


「最近はさすがに数は減ったがな。まあなんかあったら教えてくれ」


「同族殺しなんて恐れ入る」


これは小声で言った。


「おうおうそうだよ。めっちゃ大変なんだよ」


そこで何か思い出したように更に言った。


「過去にこれを嬉々としてやった奴がいてさあ」


「はあ」


「八つ裂きっての? それはもう徹底的にやるから、さすがに皆付いていけなくなって結局辞めたんだよね。処分ていってもさ普通あそこまでやるう? ま、当然だよな。笑える。これがまた結構最近の話なんだよ。お前も知ってる奴だよ。あーこわい」


「へえ。そいつは、凄いね」


単に話に合わせて言ったつもりだが、アキの反応を見るとご所望の返しではなかったようだ。話からするにそいつも乗り移った者のようだがこれ以上聞いても面白くなさそうだったので話を変える。


「砂浜じゃやりにくいでしょうに」


「・・・それはあちらも同じだろ。こちらは普通の人なんだ」


アキが不機嫌そうに言った。


「砂も一緒に捨てれば簡単に証拠隠滅ですね」


二人に見詰められ固まるツバキ。


「うわ、こわ。やっぱ人間て悪意をわかってるな」


「悪意を理解しているのはこちらも同じでしょ」


 


「ところでさ、これ本当に人?」


アキがツバキを見て言っている。


「だってさ、その色、人にしてはちょっとおかしくない?」


ルージュの仕事の制服は帽子を被っているので髪の色なんてわからない。朝日が射してきた。暗かったので気が付かなかった。確かに、この辺りの人にしては毛色が少し違うようにも思えたが現代ではどうにでもなる。


ツバキは人ではないと言われても動揺や怒りは無いようだった。


「ルージュさんも髪の色・・・変わっているよね」


ぎくりとした。これは人としては色が濃すぎる。


「染めているだけだし」


「イメージと違うなあ」


そちらの勝手なイメージだろ。これは地毛だ。正確に言うと元の体の色に近い。なぜかこういう色に変わってしまったのだ。これは乗り移った者には割とよくある現象だった。


「こいつの事はどうでもいい。家に魔物でも入れたとしか思えない」


「地毛ですよ。実家もすぐそこ、昔からある普通の家です。家族も普通の人間です」


「やっぱ先祖返りかなんかか。ま、現代じゃ何も起きないんだよなあ」


「改めて聞くけどルージュさんはどこ出身だったっけ?」


ツバキが静かに話した。


「昔遊んだ親戚に顔が似ているんだ。夏休みしか会ったことがなかった子なんだけど。いや、これは記憶が変わってしまって思い込んでいるだけだと思う」


「うん。別人ですよ」


「そうだよね・・・。だって海で行方不明になって十五年くらい経つわけだし。ずっと聞きたかったんだけどやっぱり違うみたいだな。うん、うん。そんな事あるわけないな。はあ、すっきりした」


これが大事な話か。


この死体は、我々の体は、どこかで死んだ人間達の体を使っている。だからまだ生きている家族がいるのは必然だった。しかしいきなり当たってしまうとは。運が無い。


誤魔化すことが出来たのと別人だという本当の事を伝えられたのでルージュは安堵した。これで彼も色々と諦めがつくだろう。


 


 



「あの、魔物はわかりました。退治している人達がいるのもわかりました。でも、では、そんな事をしているあなた方は何者なんですか。警察でもなさそうだし政府関係者? それとももっと全然違う、例えば民間の研究所の人とかなんですか?」


この疑問に行き着くのは普通だと思う。これを聞かれた事も過去にあるかもしれない。どう返すのだ?とルージュはアキを見た。身分が上の者に判断を委ねるというわけではないが、少なくとも、人間の世界に出て行った自分には勝手に喋るという権利は無いだろうと思えたからだ。アキは体こそ乗り移ったものの、まだあちら側の者だ。


「何を隠そう俺達はあれと同じ魔の者だー!」


「魔の・・・者?」


「謎の技術で人の死体に魂を移した魔の者! それがあれと我々の違いだー!」


「ええええ! いいの言っちゃって!? そこは誤魔化すとか記憶改竄とか頭部強打で記憶を飛ばすとか! しないんだ!?」


「こういう事を言うのがまさに魔の者。こっわー」


「はあ!?」


「だって少し混じってるだろ。乗り移ったんじゃなくて絶対本物がいたな。人に化けていたかそのままヤったか。どちらにしろちょーっとだけ関係者? いいんじゃないの」


ここが地元だと言っていた。だから魔の者と接触する機会が多くあったのだろうと推測する。昔の、力の強い者がまだいる頃であったなら人に化けることも可能だったかもしれない。ただし繁殖力は人間のほうが遥かに強い。何も残せなかっただろう。あるいはそれが隠れ蓑となり平和に暮らせた・・・などとルージュは想像した。彼女には別世界の話のようだ。


ツバキを見る。彼は困惑していた。いい歳した大人の男が何を言っているのか、という顔に見える。わかる。これは、ちょっと、どういう反応をしていいか困る。


「信じなくていいから。どうせこれといった証拠みたいな物があるわけじゃない。変な奴が変な事言っている、それだけだと思っていいから」


「ううーん。信じたいんですけど、うーん? ええ・・・本当ですか? でもルージュさんの言う事だから信じる・・・」


「信じなくていいから」


ツバキやルージュの反応を見てようやく満足したのかアキが言った。


「明るくなってきた。終わりだ」


見ると魔の者は船のような物に乗せられ、沖合いへ出されていた。きっとあの船は沈んでいくように出来ている。もう誰にも見付からなければいい、と思った。


太陽が昇って明るくなるともう人間の時間だ。


ここぞとばかりにルージュは退散しようとした。


「ちょっと待て」


今までで一番強い言い方だった。平静さを保ちながらアキを見た。


「お前さ、事務のなんかの書類、受け取ってないだろ。事務の人が文句言ってたぞ」


別の意味で青ざめた。


「し、知ってる! わかってる! 覚えている! さすがに今日は疲れて眠くてですね・・・そのうち取りに行きま・・・」


「今から行けばいいだろ。何言ってんの」


「ほらあ・・・今行っても誰もいないしー・・・」


「あと一時間か二時間待てばいいだけだし。よし上がりの奴らと一緒に帰れよ。おーい」


行きたくない。出来ればもう二度と行きたくなかった。しかし身元引受人になっている館に、就職や引っ越し時など各種書類が届くようになっていたのだ。これには参った。想定外だった。やはり逃げられないのか、とがっくりした。で結局、今の今まで放っておいている。想像しただけで胃がひっくり返りそうだ。口の奥から何かせり上がってくるような。胸と腹が苦しくなってきた感じがして押さえた。そこまで嫌だったのか?と逆に笑えてきた。


「あの、付いて行ってもいい?」


「いい。要らないです・・・」


「だって全然大丈夫そうじゃないよ」


「いいじゃん。あいつらに見せてやれよ」


アキが楽しそうに言った。あいつらとは研究職の者だろう。今の時間でも多分いる。あそこに住んでいるのかと疑うほど研究熱心だ。


「獲って喰われたらどうするの」


「喰うとかって。今時なに?」


「おいしくないよー」


というわけで数人の作業者と一緒に館へ行くことになった。


「人の子に好かれて良かったじゃん。せいぜい自分好みの眷属に育てるんだな」


「眷属とか古い習性は持ってない」


アキは言うだけ言って挨拶などは一切なしでその場を去ってしまった。


一行は十五分ほど歩いた所にある館へ向かうことになった。体力仕事の夜勤明け、既に明るくなった外を歩く者たちは独特の重い足取りだった。ルージュも同じような足取りだ。思い出したら疲れがぶり返して来た。


同行した者たちは、明らかに人間であるツバキを最初はちらちらと見たがもう興味はなさそうだった。住宅街の狭い道は車も人もまだあまりいない。ツバキにやや近づいて話し掛けた。徹夜明けで眠そうだった。


「大丈夫ですか? ごめんなさい。普通に今まで通り普通に、普通にして貰えたら助かります」


「うん、わかった。でもまだ信じられないというか、え本当に? はああ・・・凄いことになってしまったなあ。体の一部を異形にしたりビーム出したりとか出来ないの?」


「出来ませんね。私たちの体は普通の人です。なのでもうそんな能力?とか無いですよ。中身はともかく、見た目だけは見た目どおりの腕力と体力です」


稀に乗り移っても魔の者特有の能力を持ったままの者がいる。噂だとアキがそうらしい。


「カイトさんてどんな方だったの」


「どんなか・・・。自分のことは喋らない奴だったのでよくわからないですね」


「変て言われていたけど、どんなところが変だったんですか」


「何か色々・・・あ、グラタン奢ってくれた」


「グラタン」


「普通に美味しかった。まあ変と言えばそうだけどあの程度普通でしたよ。私はアキ達のほうがよほど変に思っていたり・・・これは秘密ですよ」


先程のアキとここにいる部下たちの関係は特に問題がないように見えた。むしろ世話焼きで配慮も出来る良い先輩のような。それが、実の弟にはあれだ。


そして下の弟とは確か仲が良かった。彼はアキによく懐いていた。それをカイトに見せつけていた節もある。


カイトはあの感じでは海神である母親とも距離がある。食事に行くと言ったあの日、皆あの場では普通に振る舞っていた。カイト以外は所謂普通の家族なのに、カイトにはあの扱いだ。これは、彼が悪いのだろうか? 彼自身に何かがあってそれを嫌悪されているということか? 家族と仲良くする一方で、家族にああいう態度もする。血縁なんて所詮そんなものか、と思わせた。


「よくあの環境で生きてこれたな、みたいな感じ。よく一緒に住んでいたなあ。窮屈だし色んなものでごちゃごちゃ固められていたのに。鈍感とは思えなかったですけどね。だからこそ引き篭もって漫画やアニメで遮断していたのかも。確かにあれらは面白いけれど・・・。あ、これは私の見た感想だから正確ではないですよ。偏見が入っていますね・・・地元の者達に似ているような気がしたので」


地元の者達みたいに気持ち悪い、という意味だ。周りに館の者がいるので直接には言わない。それに口に出すと増長されそうで嫌だった。


ツバキがお、という顔になった。


「人に成らないことに決めたんですよ。死ぬのが怖いくせに、何もしない。直前まできっと何もしない。どうするのかって訊いたらなんて答えたと思います?」


ルージュはツバキの返答を待たずに続けた。


「そんな怖ろしい事を言うな、よ! あははは!」


ルージュは仰け反って笑った。全然面白い話題ではないがおかしいからだ。


「というわけで私は出て来たのです。何十年も前の話です。懐かしい・・・。しかしどうして出て行かなかったんだろう。そこだけはわからない。聞けば良かった」


「あるいは出て行くという選択肢を思い付けなかった」


「外出は普通に出来るのに?」


「うんそう。何十年もそうだと思っているとそれ以外思い付かなかったりするからね。僕もそうだったし。実家を出て一人暮らししてから気付いた実家の変なところ・・・あーあれは恥ずかしかった・・・」


項垂れながらツバキが言った。それから顔を上げて聞いたきた。


「もしかしてルージュさん、物凄く年上だったりする・・・んですか?」


「ええ、まあ。えーと君の二倍・・・三倍くらいかな? 息子と同じくらい? 息子というより孫か」


「こ、こここ子供いたんですかあ!?」


「いないけど。いたらその位というたとえだったんだけど・・・」


もうここまで来たならこのくらい言っても大丈夫だろう。馬鹿ではなさそうだから自分の生活に戻っても口外はしないと思えた。何より人間側の理解者は貴重だ。


「でも人に成ったのはまだ数年だからツバキさんのほうが先輩ですよ」


「ああ、どうしよう。ちょっと考えさせて下さい」


「いやだから敬語とか要らないから。今まで通り普通に」


「駄目ですよう。凄く凄く大事なことですよ!」

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